pdとは
pdとは、proprioceptive derivationの略で、1950年代半ばに来日した
アメリカ人のDr.Daryl Raymond Beachが提唱し、歯科治療に適用しました。
なぜ歯科治療にそれを適用するのかという話の前に、この用語について解説したいと思います。
まず直訳すると、下記のようになります。
proprioceptive 固有感覚
derivation 導き出す
固有感覚とは、自分の身体がどんな姿勢になっているか認識するための感覚を意味します。
ふだん、固有感覚はほとんど認識されることはありません。
五感が眼・耳・鼻・舌・皮膚から情報伝達されていることは認識しやすいことです。
一方、固有感覚は、あらゆる筋肉・腱・関節の中にセンサーがあるので、その存在は認識しにくいのです。
では具体的に固有感覚は何をしてくれるのか。
今、このページをご覧になっている方は立っていらっしゃいますか、座っていらっしゃいますか。
それがわかるのはなぜでしょうか。それを姿勢として認識できるのは固有感覚のおかげなのです。
次に、身体を動かす筋肉と固有感覚の関係について解説します。
前述の通り、固有感覚は筋肉、腱、関節に存在するため、身体を動かす時には切っても切れない存在です。
筋肉は、gross muscleとfine muscleの大きくふたつに分類できます。
前者は、大きな筋肉で身体の骨格、構造、体重を支え、一般的な肉体労働において活躍しています。
fine muscleの活動の基礎またはベースになっています。
後者は、これは手指の小さな筋肉で複雑に巧みに作用し合い、精密な作業において活躍しています。
習字の姿勢を想像してみてください。まず固有感覚によりgross muscleがどんな状態であるかを意識します。
リラックスか緊張か弛緩しているか。まっすぐに座っているときはいいのですが、
前後左右に傾くと、身体中に緊張が走り過緊張の状態です。
逆に体調が悪い時には、力が入らず、座っていられず過弛緩の状態です。
過緊張でもなく過弛緩でもない、いわゆる「いい按配」や「リラックス」の状態が理想です。
この状態がfine muscleの望ましい活躍条件です。これは容易に想像できると思います。
一方、fine muscleの条件は大変わかりにくく、職人が技を磨くのには数年かかることから推察できます。
職人が細かい作業をするとき、関節の可動方向や腱には無理矛盾にない状態が求められます。
五感だけではそれを把握できませんし、細かい作業では尚更です。
また、その状態で作業に用いる道具や環境は適切なものでなければなりません。
これが満たされないと、作業は長時間化し、疲労、怪我、低効率、低効果を招きかねません。
では、なぜ固有感覚を歯科治療に適用するかの話に戻りましょう。
口腔内を洞窟に例えると、光が届きにくく、ただ覗き込むだけでは全貌は見えません。
つまり、視覚に頼りがちではあるが、それでは不十分ということです。
歯科治療は、非常に精密で0.2~0.3mm単位での正確な動きが求められます。
ここで、固有感覚を最優先すべきと考えたのがpd論理なのです。
<固有感覚活用の効果>
1. 術者は望ましい作業姿勢を維持できる
2. 術者の作業に合わせた適切な器具・道具・環境を作り、効果的に使用できる
3. 患者さんと術者・器具のポジショニングが適切に取れる
4. 1~3により治療を正確・効率・快適に進めることができ、優れた結果が導き出される
当院はこの論理に基づき全てが設計されており、治療もそれに基づいています。
当たり前のことではありますが、きちんと治療を行えば、また悪くなって治療を繰り返すことはほとんどなくなります。
それが患者さんにとっても最大のメリットだと考えています。